AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

「何か御用ですか?」
 彼女は微笑しながら俺に問い掛けた。
「あっあの、その……べ、別に怪しい者じゃないからったっただっ昨日もここにいたからっちょっとっ気になったってだけでっねっ」
 さらに顔が紅潮する。慌てて振った両手が、力が抜けて手首だけが垂れ下がったマヌケな格好になる。
 彼女はぷっと吹き出し、くすくす笑い出した。
「面白い人ですねー」
「あ、いや、その……」
 顔の熱がどんどん上がっていく。恥ずかしさで、言葉が出てこない。
「大学の人ですか?」
 今度は、彼女の方が話しかけてきた。少し高いが、子供っぽい声でも、大人っぽい声と言うわけでもない。彼女の纏う服のように、暖かみのある声で。
「あ、う、うん。そう……」
「ここには、よく来るんですか?」
「あ、うん。講義の合間とか、放課後とかに……」
「そう。いいですね。私大学行けなかったから……」
 桜の木を見あげ、憂いを帯びた表情で彼女は呟く。さあっと風が吹き、桜の雨を降らせる。
「ここに、入学する予定だったの……?」
 恐る恐る尋ねてみる。だが、彼女は首を軽く左右に振った。
「大学は最初から行けなかったの。高校も、なんとか卒業できたようなものだし……」
 彼女の顔がどんどん下へ向き、風がどんどん強くなってゆく。
 やがて、彼女は顔を上げ、俺の方に向き直った。
「私、心臓が弱いの。生まれつき弱かったんだけど、一旦治って……高校でまた再発しちゃって。大学は諦めて……今は、そこの病院に通ってるの」
 言って、彼女は大学の向かいにある病院を指した。うちの大学の付属病院だ。
 何となく、やるせない気分になった。聞かなかった方がよかったのかもしれない。
 ゴメン、と口から出しかけ、ふと疑問が浮かんだ。
「何で、俺に教えてくれるの……?」
 大抵、自分のことは、気心の知れた、親しい人間にしか話さないだろう。しかも、持病のことなんて、本当に親しい人間にしか明かしたくないはずだ。少なくとも、俺は。
 でも、彼女は俺に打ち明けてくれた。初対面の俺なんかに。
 彼女はふっと微笑み、
「何ででしょうね」
 その柔らかい表情に、俺は思わず見惚れてしまった。
 ふと、彼女は腕につけた時計を見て、あ、と呻いた。
「診察の時間だ。じゃ、さよなら……」
「ま、まって!」
 駆け出そうとする彼女の腕を、俺は咄嗟につかんだ。驚いたのか、きょとんとした表情で俺を見つめる。
「また……会えないか?」
 彼女は呆然としていたが、その表情を柔らかい笑みに変えて応えた。
「私は、診察のある日は必ずここに来るから、その時には会えますよ。じゃ……」
「待って。名前……教えてくれないか? 俺、新堂和壱(しんどうかずいち)っていうんだ」
 再び駆け出そうとする彼女を捕まえ、俺は質問した。彼女は、やや戸惑った表情を見せて、応えた。
「……桜花。春原 桜花」
 言うと、彼女は軽い駆け足で病院の方にかけていった。
 スハラオウカ。その名前が、耳について、消えなかった。


 

第四話へ続く

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